天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
突然に家族との別れを強いられた者同士、互いを励まし合いながら訓練を重ねた過去は確かに大切な記憶だ。
しかし、それに執着するばかりで成長しようとしないのなら、ノアは俺から離れるべきだ。自分にとってなにが一番の幸せなのかを見つめ直すために。
各所への報告を終え、更衣室に向かう頃には午後九時を過ぎていた。久々にスマホを取り出してみると、紗弓からのメッセージが一件。
【トラブルの対処、お疲れ様でした。私、あの便に乗っていました】
「えっ……?」
紗弓が、どうして。
思わず足を止め、返信を打つ。
【大阪に用があったのか? 振替便には乗れたか?】
【いいえ。まだ、羽田空港にいます。嵐さんに会いたくて】
そのメッセージを目にした瞬間、鼓動が熱く脈打つ。あの便が羽田に戻ってから、一時間以上経つ。家で待つこともできたはずなのに、ずっと空港にいたのだろうか。
愛おしさに胸が詰まり、更衣室へ向かおうとしていた足が、反対方向に向かって歩き出す。
制服を脱ぐのももどかしいくらい、彼女に会いたかった。