天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
落ち着いたダークブラウンの木製家具で統一された、大人っぽい部屋。
あまり飾り気はなく、壁一面の書架に並んだ航空関係の書籍や資料は実家の父の部屋を彷彿とさせて、懐かしい気持ちになる。
一歩足を踏み入れただけで、すっかり彼の香りとして脳にインプットされているシトラス系のフレグランスが、微かに鼻腔をくすぐった。
ドキドキする反面私を安心させてくれる、特別な香りだ。
嵐さんの気配を感じてときめきを感じつつ、彼の大きな体に合った広いベッドに近づく。
ベッドの端に、脱ぎ捨てられた彼のスウェットが落ちそうになっていたので、畳んであげようと手に取った。彼の香りが今までで一番濃く香って、私の胸をいっぱいにする。
「嵐さん……」
スウェットをギュッと抱きしめて呟く。
脱ぎ捨てられた服さえ愛しいなんて、ちょっと危ない……?
でも、今は本人に抱きしめてもらえないんだもの。少しだけならいいよね。
自分に言い訳しつつ、結局眠るときまで彼のスウェットを手放せなかった。
彼の抜け殻を胸に抱きうとうとしていると、予約した大阪行きのチケットの確認メールをチェックしていなかったことに気づく。
見ようとは思ったものの、メールを開封する直前で、手からぽとりとスマホが落ちる。
空調はつけていないので、自分の部屋にいる時と室温そのものは変わらない。なのに不思議と暖かくて心地いいので、すっかり安心しきって眠りに落ちた。