天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「それなら安心してください。香椎さんは誰より公私の区別をハッキリしている人です。たぶん、僕が紗弓さんの夫になったとしても、不甲斐ないオペレーションをしたら即不合格を言い渡しますよ。そんな人だからこそ、尊敬も信頼もしています」
私の目を真っすぐに見つめて、露木さんが語る。
傲慢で、女たらしで、性格の悪いパイロットであるはずなのに……実際に会った露木さんは気さくで話しやすく、パイロットの仕事に自信と誇りを持っている。
これが本当の姿とは限らないが、今目の前にいる彼は、昇さんの評価とは真逆の誠実な人に見える。
……もう少し、話をしてみたいな。
「父のこと、そんな風に言ってくださってありがとうございます。パイロットの皆さんからは嫌われているのだとばかり思っていました」
「とんでもない。香椎さんの審査が厳しいのは、乗客たちの安全を確保し、確実に目的地まで送り届けるためです。人の命がかかっていますから、手を抜けなくて当然です」
まったく同じことを考えていたので、つい深く頷いた。
露木さんの言うことはもっともだ。だからパイロットになるのは難しいし、なってからも努力を必要とされる。何百人もの命を守り続けるために。
……お酒に溺れてしまった昇さんには、その気持ちが欠けていた。