天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 手荷物を軽く整理して、シートベルトを締める。サインが出ていなくても締めておけと、子どもの頃から父に言い聞かされているのだ。

 伊丹空港まで、嵐さんとノアさん、どちらが操縦していくんだろう。

 阿吽の呼吸で離陸までのやり取りを交わすふたりを想像してしまう。

 仕事中のことにまで嫉妬したくないのに……。

 浮かない気持ちで外を眺めているうちに、飛行機は滑走路へ移動し、定刻通りに離陸した。

 空港で働いているのに飛行機に乗るのは久しぶりだったので、徐々に小さくなる東京の夜景が綺麗で感動する。

 嵐さんも、コックピットから見ているかな……。

 ふと彼に思いを馳せたその時、機内アナウンスを知らせる案内音がした。

『ご搭乗の皆様こんばんは。操縦室よりご案内いたします』

 ……ノアさんの声。

 彼女は仕事をしているだけだというのに複雑な気持ちになる。

 よどみなく伝えられる天候の情報も到着時間も、頭に入ってこない。

 今、彼女は嵐さんの隣にいる。その事実ばかり考えてしまい呼吸が浅くなった。

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