天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
『酸素マスクをつけてください。ベルトを締めてください』
英語と日本語の自動音声が繰り返し流れ始め、杏里さんたちCAの表情がサッと真剣なものになる。
どうやらトラブルが起きたようだ。
酸素マスクや救命具の使い方は何度も説明されているが、慌ててしまう。
私はなんとか装着できたものの、中には戸惑う人たちもいて、乗客用とは別のマスクをつけた杏里さんたちが即座に客席を見回り、全員のマスク着用をフォローしていた。
自動音声は繰り返し流れているものの少し機内が落ち着いたタイミングで、コックピットからのアナウンスが入る。
『操縦室より、機長の露木がご案内します。ただいま、機内の気圧をコントロールする部品に故障が発生し、機内の気圧が低下しております』
嵐さんの声……。気圧のトラブルって、もしかしてあの事故と同じ……?
脳裏をよぎったのは、パシフィックスカイ航空714便の事故。
まさか、嵐さんの担当機が同じトラブルに見舞われるなんて……。
彼だけでなくノアさんだって、心中穏やかじゃないはずだ。
ふたりともプロだとわかっていても心配になってしまう。
少しでもコックピットの雰囲気を感じ取りたくて、彼のアナウンスにいっそう耳を澄ませた。