天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
『そのため当機は安全な高度まで降下したのち、羽田空港へ引き返し緊急着陸することを決定いたしました。客室乗務員の指示があるまでは酸素マスクをつけたまま、ご着席を続けてください。私どもはこうしたトラブルへの対応を繰り返し訓練しておりますので、安全運航に問題はございません。お客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解ご協力をお願いいたします』
アナウンスはそこで途切れ、酸素マスクの着用を促す自動音声が鳴り響く状況に戻る。
しかし、客室内の緊迫した空気は、コックピットからのアナウンスがある前より明らかにやわらいでいた。
嵐さんは、本当に強い人だ。ご両親をなくした悲しみをを乗り越えてパイロットになっただけでもすごいのに、あの事故と同じトラブルに見舞われても、心を乱さず乗客の安全を第一に考えている。
ここは空の上できっと天国にも近いから、彼のご両親もきっと見守っている。
頼もしくなった息子の姿を誇りに思っているに違いない。そう思うと、自然と目頭が熱くなった。
今度は私がご両親の代わりに、彼の帰る場所になりたい。
家族なんていらない、ではなく、家族のために帰るんだって、フライトのたびに彼が思えるように――。
説明があった通りぐんぐん機体が降下していく感覚はあるものの、大きな揺れは感じない。
嵐さんが落ち着いて機体を制御している証拠だ。私たちはただ、彼を信じていればいい。