天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「早くしてよね。あと三十分で閉まっちゃうんだから」
「わ、わかりました」

 ぷいと顔を背けて歩き出す彼女の後ろで、私はバッグにつけてある防犯ブザーを力任せに引っ張る。

 音を鳴らすためではなく無理やり外すためだ。

 金属の輪が歪んで本体が外れると、音を立てないよう座っていたベンチに置く。しかし、慌てていたせいかブザーはコロンと床に落ちてしまった。

 プラスチックが床にあたる音がして、思わずどきりとする。

 しかし、ノアさんは特に気に留めなかったらしく、振り向きもしなかった。胸をなでおろし、彼女の後を追う。

 嵐さんならきっと見つけてくれるはずだと祈りながら。


 デッキは思っていた通り、びゅうびゅうと北風が吹いていて寒かった。

 なぜわざわざこんな場所に……。コートの襟をかきあわせながらノアさんの後をついて行くと、ノアさんが誰かに向かって手を上げた。

 ベンチに座っていた男性が同じように手を上げ、ベンチから立つ。

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