天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 自分のプライドを守るためだけに私を利用しようとしている彼に、女癖どうこうと言う資格はない。聞いているだけで腹立たしくなってくる。

 嵐さんも彼の話を信じてはいないと思うものの、沈黙している。それに気をよくしたらしい昇さんはさらに続けた。

「空港って屈辱的な場所だと思っていたけど、今この瞬間、また好きな場所になった。そういえば、紗弓に初めて告白したのもここだったな」

 昇さんが、ちらりと私を見る。確かに、彼に告白されたのは空港の展望デッキだ。

 ただし、第一ターミナルではなく第三ターミナル。違う場所なのだからそんなに感慨深くないでしょうと突っ込みたくなる。

 が、今なら、昇さんに合わせて発言できるチャンスだ。

「そうですね。ちょっと寒いけど思い出の場所です」

 〝寒い〟というのが、屋外にいるヒントのつもりだ。どうか嵐さんに伝わりますようにと、胸の内で祈る。

 その時、ちょうど空から一機、旅客機が滑走路に降りてくる。羽田発の便は出払っていたが到着機はまだあったらしい。

 電話の向こうの嵐さんにも、エンジン音が聞こえただろうか。

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