天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
『……紗弓を手に入れたところで、どうせきみは満たされないんじゃないか?』
嵐さんの物言いが、初めて挑発的なものになった。
先ほどより声に余裕があるようにも感じるのは、期待しすぎだろうか。私の居場所に気づいてくれたんだと思いたい。
「……なんだと?」
昇さんの眉がぴくりと動いた。
『本当は仕事で俺を蹴落としたいのに、今の自分ではそれが叶わないから、意地になって紗弓に執着しているだけなんだろう? パイロットに戻れない腹いせに、彼女を利用しているだけだ』
「違う! 戻れないじゃなく、ブルーバードがブラック企業だから戻らないだけだ! 好きな時に酒も飲めないシフトを組まれ、機長は全員偉そうなだけで誰も俺の実力を認めようとしない。あんな会社こっちから願い下げなんだよ!」
急に感情的になった昇さんは、図星だと言っているようにしか見えなかった。
しかしそんなことより、私は嵐さんの声が微かに弾んでいることが気になっていた。まるで走っているみたいに。
私を捜しているか、ここへ向かってくれている途中かもしれない。
さりげなく、二カ所ある展望デッキへの出入り口に注意を払う。