天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
昇さんは反論したそうに口をモゴモゴさせたものの、結局はなにも言えず黙り込んだ。
それから居たたまれない空気に負けたように、足早にデッキを去っていく。
彼には今度こそ、真面目に生き直してほしい。
口には出さないけれど、昇さんの背中に向かってそっと祈った。
昇さんの姿が見えなくなると嵐さんは体の向きを変え、ずっとそっぽを向いたままのノアさんへ歩み寄った。
「ノア」
さすがに嵐さんのことは無視できないのか、彼女は気まずそうにしながらも振り向く。
古い友人のノアさんには嵐さんも多少の情を見せるかと思いきや、厳しい表情は昇さんと対峙している時と変わらない。
「青桐が紗弓に執着しているのを知っていて、ふたりを会わせた。あわよくば、俺と紗弓の関係が壊れてしまえばいいと思った。そういう陰湿な考えだったんだろう?」
「……嵐はなんでもお見通しね」
ノアさんは力ない笑みを浮かべ、ふっと息をつく。言い訳も反論もする気はなさそうだった。