天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「ありがとうございます。露木さんのような素敵な男性からそう言っていただけると自信になります」
騒がしい自分の鼓動をごまかすように、一線を引いた笑顔で対応する。
露木さんは一瞬押し黙ったが、すぐに口角を上げてお茶のカップに手を伸ばした。
「それならよかった」
長い睫毛を伏せてお茶を飲む彼は、ほんの少し残念そうに見える。
口説くのに失敗したとでも思ったのかもしれないが、そういう相手は別で探してほしい。昇さんとの交際に失敗してから、恋愛するのは億劫なのだ。
結局お互い他人行儀な態度は崩さないまま、食事の時間は穏やかに過ぎていった。
露木さんとはホテルの前で別れ、肩の荷が下りたような気分で帰路につく。
アフタヌーンティーは美味しかったけれど、緊張のせいかあまり食べた気がしない。
すぐそばの百貨店に道重堂が入っているから、和菓子でも買って帰ろうかな……。
地下鉄の駅に向かおうとしていた足を方向転換し、歩き出した時だった。バッグの中でスマホが振動しているのを感じ、取り出してみる。
「昇さん……?」
今度はメッセージではなく、電話だった。
わざわざ電話をしてくるなんて急用?