天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「それは虫がよすぎるんじゃないか、ノア」
その時、私を背に庇うようにして、嵐さんがそっと前に出た。広い背中がとても頼もしく見えて、ふっとネガティブな気持ちが軽くなる。
昇さんだけでなく、かつて友人だったノアさんからも全力で私を守ってくれる彼の気持ちが、じんわり胸に沁み渡っていく。
「きみが紗弓にしたことは〝ついやってしまった〟のひと言では済まない。自分の大切な人を傷つけようとした相手と、どうして友人関係のままでいられると思う?」
「嵐……」
「今のきみは、自分のことしか見えていない。友人でいることはおろか、機長としても、一緒に仕事をしたくない。パイロットの仕事を続けたいのなら、もう一度自分を見つめ直せ」
嵐さんの厳しい言葉を受け、ノアさんの大きな瞳からぽろっと涙がこぼれる。しかし、すぐに泣き顔を隠すようにして、私たちの横をすり抜けデッキから出て行った。
ヒールの音が遠ざかり、やがて静かになる。嵐さんがそっと、私の手を握った。
冷えた指先が彼の大きな手に包み込まれ、温まっていく。体温を通して彼の気持ちが伝わってくるようだ。