天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「ありがとう、嵐さん。フライトの時も今も、私を守ってくれて」
「当たり前だ。きみを守るために結婚したんだから」
つないだ手をくいっと引いて、嵐さんが私をそっと抱きしめる。さっきの着陸機が最後だったのか、展望デッキは風の音以外とても静か。
彼の腕に抱かれて空港の夜景を見ていると、心も穏やかになっていく。
「帰ろうか、紗弓。じきにここも閉まる」
「そうですね。帰りましょう、私たちの家に」
ホッとしたら、なんだかお腹が空いた。嵐さんもトラブルの件でとても疲れているはずだ。
「そういえば、土曜が出勤になってしまったんだ。今日の大阪ステイがなくなったから、シフトが変更になって」
「土曜……あっ、私たちのバレンタイン――」
「でもその代わり、明日が休み」
そう言って私を見下ろす嵐さんの目は少し悪戯っぽい。
「明日?」
「そう。だから、今夜はいくら夜更かししても平気だ」
「ダメですよ、嵐さんお疲れなのに」
デッキからターミナル内に入り、ふたりでエレベーターに乗り込む。
ドアが閉まると、嵐さんがなぜかくすくす笑い出した。