天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 こんなふうに全身を使って、あなたが愛しいとお互いに伝え合うこと。

 それはきっと、言葉を使うのと同じくらい、夫婦にとって大切なコミュニケーションだ。

 夢中で体を重ねるうち日付は変わったけれど、〝私たちのバレンタイン〟は朝方まで終わらず、最後はお互い疲れ果てたように、それでも抱き合いながら眠った。


 ノアさんは二月いっぱいで、入ったばかりのブルーバードエアラインを退職することになった。

 嵐さんとのフライトで与圧トラブルに見舞われた時にパニックになりかけた彼女は、あの後医師の診察を受けたそう。嵐さんは事故でご両親をなくした件で精神的な問題があるのではと考えていたそうだが、結果は問題なし。
 
 ノアさんは私の父とも面談し、その上で退職まで乗務を続けられることになった。面談の内容は父ももちろん口外しないけれど、嵐さんは『もしかしたら演技だったのかもしれない』と、ため息をついていた。

 彼女の最終フライトに立ち会った機長は、私の父だった。

 彼女と昇さんが共謀して私にした行為については父も知っていたが、だからといってノアさんに特別つらく当たることもなく通常通り乗務をこなした。

 しかしそんな父のことが、ノアさんは不思議だったようだ。

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