天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「成沢さん、フライトの後でこう言ったそうよ。『私のこと、憎くないんですか? 香椎さんが娘を溺愛しているのは有名な話だから、今日は絶対私の操縦に難癖つけられるんだと思っていました』って」
実家の食卓で、母が教えてくれる。
今日は、三月三日のひな祭り。私たち夫婦も父も休みだったので、みんなでちらし寿司を食べましょうと母に誘われ、両親と私たち夫婦の四人で同じテーブルを囲んでいた。
「それでお父さん、なんて答えたの?」
「うん? 俺はただ……『紗弓を傷つけるような人間は地獄に落ちればいいと思っているが、娘と仕事は関係ない。今日のきみのオペレーションにはなんの問題もなかった。それだけだ』と言った」
淡々と話した父は、照れ隠しなのか手元のお猪口に入った熱燗をぐいっと飲み干す。
……わが父ながら、カッコいい。口には出さないけれど、心の中で拍手する。
しかし、隣にいる嵐さんの表情は少し冴えなかった。
「すみませんでした、成沢副操縦士のこと」
嵐さんが、そう言って父に頭を下げる。