天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「お父さん、定期審査や身体検査は毎年問題ないんだけど、自分の中ではやっぱり加齢による衰えを感じるみたいなの。周りはもう少し乗れるだろうと言ってくれるらしいんだけれど、この通り自分にも厳しい人だから一度決めたらテコでも動かないのよね」
母はすでに受け入れているようで、クスクス笑っている。
「乗務を離れる理由はそれだけじゃない」
父が、少し心外そうに母を見つめた。
「えっ?」
「きみには苦労ばかりかけてきた。家事も、紗弓の育児も任せきりにして……自分は好き勝手に世界中を飛び回って。会社ではある程度偉くなったかもしれないが、夫としては劣等生だったと思う。だから……」
父は後悔を滲ませて、伏し目がちになる。しかし、直後にはカッと目を見開き、唐突に母の両手を握った。
「お互いにこんな歳だが、新婚生活をやり直させてほしい。俺にはきみが必要なんだ、真弓」
「一成さん……もちろん、喜んで」
私が物心つくころには、お互いを『お父さん』『お母さん』と呼んでいた両親が、名前を呼んで見つめ合っている。
仲がいいのはわかっていたけれど、父がこうまでストレートに愛情表現するのは初めて見た。