天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
普段は父を茶化したりすることが多い母の方も、目の中にハートを宿したようにうっとりしている。
娘としては少し照れくさい反面、胸が温かくなった。
「前に紗弓が『父が威厳をなくす日も近いですね』と言っていたが、いざお義母さんを大切にする香椎さんを目の当たりにすると、むしろ逆の感情が湧いたよ」
嵐さんが私の耳元で、こそっと呟く。
「逆……ですか?」
「ああ。香椎さんはやっぱり憧れのグレートキャプテンだ」
父を見つめ、少年のように瞳を輝かせる嵐さん。パイロットとしての在り方だけでなく、ひとりの男としても父を尊敬してくれているようだ。
私にとっても父は昔からカッコいい存在なので、深く頷いた。
「ですね」
目線の先では、父の眉間の皺を母がちょんと人差し指でつつき、「こんな時でも取れないのね」と笑っている。
ちらし寿司と一緒にテーブルに並んだ蛤のお吸い物には、今日も父の大好きな絹さやが浮いていた。