天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「昇さん、なにを言っているんですか?」
『おかしいと思ったんだ。あんなに俺のこと好きだった紗弓が急に別れるなんて言うから。でも、そういうことなら今度迎えに行く。露木なんかに騙されちゃダメだぞ』

 そういうことって、どういうこと? 迎えに行くって、私を?

 一方的に話を進める昇さんが不気味で、寒気を覚えた二の腕をさする。

「あの、昇さん? 私たちの関係はもう終わっ――」
『親の反対で別れるなんて、ロミオとジュリエットみたいだよな。でも安心して。絶対に紗弓を悲しませる結末にはしないから』

 聞く耳を持たない彼に、とうとう肌が粟立つ。あまりの恐怖に言葉を失っているうちに、通話は切れていた。

「なんなの……」

 耳から放したスマホを眺め、呆然とする。けれどすぐにハッとして、昇さんからの連絡は電話もメッセージも拒否する設定に変えた。

 和菓子を食べたい気持ちも失せてしまい、重い足取りで駅の方へ向かう。

 これで昇さんから連絡はこない。だけど、そのせいで彼を変な風に焚きつけてしまったとしたら……今度はなにをしてくるだろう。

 自宅の場所も知られているし、職場も彼と付き合っていた頃から変わっていない。

 最悪の展開が頭をよぎり、ブンブンと頭を振る。

 昇さんだって、元は立派なパイロットだったのだ。やっていいことと悪いことの区別くらいつくはずだ。

 連絡を拒否されたことで、目を覚ましてくれればいいけど……。

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