天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 披露宴の後、私たち夫婦は式場近くのラグジュアリーホテルに移動した。今夜はホテルに一泊して、明日からは嵐さんの第二の故郷であるバンクーバーへの新婚旅行なのだ。

「香椎さん、花嫁の手紙で号泣してたな」
「ですね。お母さんより泣いててびっくりしちゃった」

 広いバスルームに、クスクス笑う私たちの声が響く。

 宿泊しているのは豪華なスイートルームなので、お風呂も二人で堪能したくて、恥ずかしいけれど一緒に入ることにしたのだ。

「明日のラストフライトでも泣いたりしてな」
「あり得ますね。家族と同じくらい、飛行機のことも愛しているから」

 実は、明日私たちが搭乗予定の便を操縦するのは、私の父。

 大切な娘とその夫が新婚旅行で乗る飛行機を自分で操縦したいと、父が会社に頼み込んだそうだ。そしてこれが、父のラストフライトとなる。

 明日に備え、父は披露宴で一滴もお酒を飲まなかった。

「それにしても、紗弓のドレス姿綺麗だったな」

 後ろから私をゆるく抱きしめていた彼が、ギュッと腕に力を籠める。耳に唇が触れ、チュッと音を立ててキスされる。

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