天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
いや、落ち着きなさい、紗弓。ここは出国審査を済ませた人しか利用できないゾーン。昇さんもこれから海外旅行かなにかで、ただラウンジを利用したいだけ。
この場所を訪れる理由なんて、それ以外にあるはずがない。
「お久しぶりです。ラウンジをご利用でしたら、チケットとパスポート、カードを確認させていただきます」
恐怖を押し隠し、他のお客さんへの態度と同じように接してみる。
昇さんはコートのポケットからチケットやパスポートの一式を出して、カウンターに置いた。チケットの行き先は、韓国のソウルとなっている。
よかった……。やっぱり、ラウンジを利用したいだけだったみたい。
顔には出さずに胸をなでおろし、両手をカウンターに手を伸ばした瞬間だった。チケット類を掴もうとした私の手に、彼が自分の手を重ねた。
驚いて目を合わせると、昇さんが不気味に微笑む。
「連絡が取れないから、会いに来たんだ」
穏やかな声だが、一瞬にして恐怖が舞い戻る。助けを求めたいが、喉がキュッと締まってしまい声も出せない。
夏希……早く戻ってきて。