天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「昇さん、離してください……」
「わかってる。また香椎さんの指示だろ? 俺と連絡を取っているのがバレて、ブロックせざるを得なかった」

 昇さんは私の言葉を無視して、ひとりで話し出す。

「ち、違います……私」
「紗弓、少し痩せたんじゃないか? 俺のせいだな、ごめん」

 昇さんが空いている方の手で、そっと私の頬に触れた。不快感で、小刻みに体が震える。

 会話が成立しない……。それに、私は痩せるどころか少し太ったはずだ。昇さんと付き合っていた頃の方が、彼に嫌われまいと小食に見せたり、美容に気を遣ったりしていたから。

 きっと今の彼は、自分の見たい世界だけを見て、言いたいセリフだけを吐いているのだ。

 ……とにかく、普通の状態じゃない。

「あの、お願いですから手を……」
「ダメだ。もう、紗弓のことは離さないと決めた」

 レセプションカウンターの陰には、犯罪などのトラブルに遭った際に使う緊急通報ボタンがある。しかし、昇さんに手を掴まれたままでは操作できない。

 やはり、夏希か他の誰かがここへ来てくれるのを待つしか……。

 抵抗を試みては失敗し、ただにらみ合う時間が数分続いていたその時。

「――そこで何をしているんですか」

 パニックになりかけていた私の耳に、聞き覚えのある男性の声が飛び込んでくる。

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