天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「それだけなら、彼女の手を握る必要はない」

 淡々と話す露木さんに、昇さんがハッと息を漏らして笑う。

「……お前、空気読めよな。俺と紗弓は元恋人同士。仕事人間の露木にはわからないだろうが、男と女の会話をしていたんだ」

 言い終えると同時にこちらに手を伸ばした昇さんに、肩を抱かれそうになる。

 しかし、その手が私に触れるより先に、露木さんがぐっと昇さんの手首を掴んだ。

「痛って……! なにすんだよ」

 それほど強く掴まれてはいないと思うが、昇さんが派手に声を荒らげる。しかし露木さんは少しも臆さず、鋭い眼差しで昇さんを見据えた。

「男女のことに疎いのは青桐の方じゃないのか? 今の紗弓さんは俺の婚約者だ。気安く触れないでもらいたい」
「はっ? 婚約だと……? どうせハッタリだろ? なぁ紗弓」

 突然話を振られ、戸惑いながらも昇さんと露木さんを交互に見る。

 昇さんの言うように、婚約だなんて事実はない。だけど、露木さんが私を助けるためにわざと嘘をついてくれたことくらいはわかる。

 目が合った露木さんは頼もしい目をしていて、私は〝信じます〟と伝えるように小さく頷いた。

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