天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「自分が一流とは思っていないが、パイロットの能力は学歴では計れないし、現場を離れた人間にとやかく言われる筋合いもない。とにかく帰ってくれ。彼女の仕事の邪魔だ」
露木さんにそう言われて、ハッとする。カウンターの周囲には何事かとこちらを見つめるお客さんが数人と、いつの間に戻って来たのか、ラウンジへ続く通路から夏希も不安げにこちらを見ていた。
昇さんも分が悪いと思ったのか、小さく舌打ちをすると、カウンターに出しっぱなしにしていたチケットやパスポートを引っ掴んで出て行った。
慌てて戻ってきた夏希が、受付前で戸惑っていたお客さん達を接客してくれる。
「お騒がせして申し訳ございません」
上質なサービスを提供しなければならないラウンジで、スタッフがプライベートなトラブルを起こしてお客さんを不安にさせるなんて。
これで青い鳥プレミアムラウンジの評価が下がったとしたら、私のせいだ……。
夏希の横で深く頭を下げると、鼻の奥がツンとする。
しかし、ここで泣いたらプロではない。これ以上、サービスの質を落とすなんてこともしたくない。
ぐっと歯を食いしばって顔を上げると、カウンターにやってきたお客さんに笑顔を向けた。
受付手続きの途中、黙ってラウンジから出て行こうとする露木さんの姿が目に入る。
呼び止めたい気持ちはあったものの接客を中断することもできず、そのまま見送ることしかできなかった。