天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「こちらこそ、昼間はすみませんでした。本当に助かりました」
「気にしないで。紗弓さんが無事でよかった」
家族でもない人に『無事でよかった』なんて言われて、少し気恥ずかしい。露木さんの眼差しがとことん優しいからなおさら。
「助けてもらった上、父が無理なお願いをしてしまって申し訳ありません。私ならひとりで帰れますから」
「いや、送らせて。俺から志願したんだ」
「えっ?」
意外な言葉に、どきりとする。彼の一人称は『僕』だった気がするが、いつの間にか『俺』に変わっているのも、動揺の原因かもしれない。
「ハッキリ言って、今の青桐は普通じゃない。ソウル行きはキャンセルしたらしいし、きみの仕事が終わるのを待っていないとも限らないから、ひとりで帰るのは危険だ」
真剣な目で露木さんに諭され、薄れたはずの不安が再び胸に立ちこめる。
彼の言ったことが本当なら、警戒した方がよさそうだ。ひとりで歩いている時に昇さんに接近されたら、逃げるのも抵抗するのも難しい。
こんなに親身になって忠告してくれるなんて、露木さんって実はとても真面目な人?
昨日食事をした時と、昼間助けてもらった時も思ったことだけれど、上司の娘である私によくすることで点数稼ぎをしようとしているような人には見えない。