天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「わかりました。お願いしてもいいですか?」
「もちろん。念のためタクシーを使おう」
「はい」
どこかで昇さんが待ち伏せしていて絡まれる可能性を考えたら、その方が安心だ。
ターミナルを抜けた先のタクシー乗り場で、露木さんと一緒にタクシーに乗り込む。彼の長い脚は、後部座席で少し邪魔そうだ。
「紗弓さん」
「えっ? はいっ」
走り出した車の中で、ふと露木さんが話しかけてくる。振り向くと思ったより距離が近く、どきりとした。
「青桐のことだけど、少し責任を感じてる。俺のこと恨んでるよな?」
「恨む? 露木さんをですか?」
「ああ。彼が〝ああなった〟のは俺が入社してからだと、香椎さんや他の同僚に聞いている。それまでは勤勉で前向きな副操縦士だったと」
「それは……そうかもしれませんね。露木さんが先に機長昇格訓練に入った頃からはとくに、精神的に参っていたみたいです」
俯きがちに頷く。
露木さんがなにも悪いことをしていなくても、彼の存在自体が昇さんの劣等感を刺激してしまっていたことは確かだろう。