天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「当時は俺も若くて、煽るようなことを言ってしまった記憶もある。そういうことも、間接的に影響していたんだろうな。恋人であるきみに迷惑がかかっていたとはまったく知らずに……申し訳なかった」

 露木さんがそう言って、深々と頭を下げる。

「いえ、露木さんが謝ることではありません。パイロットになる方はエリート志向が強くて、そのせいで小さな失敗でも挫折しやすいという話は父から聞いています。昇さんは自分に負けてしまっただけだし、恨むなら、そんな彼を支えてあげることができなかった自分です」

 昇さんがああなってしまった原因の一端は、私にもある。そう思うとやりきれなくて、力ない苦笑がこぼれた。

 暗い気持ちをごまかすように、窓から外を眺める。遠ざかるターミナルビルの夜景が眩しくて、なんだか目に染みる。

「紗弓さん、これを」
「えっ……?」

 振り向くと、露木さんが私にハンカチを差し出していた。

 どういう意味かわからずただ瞬きをしていると、露木さんの手がスッとこちらに伸びてきて、ハンカチを私の目元にあてた。

 嘘。私、泣いてた……?

「す、すみません、自分でやります……っ」
「いいからじっとして」

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