天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
冗談じゃないと言われても、いきなり結婚なんて言われたって、信じられるはずがない。
「だって私たち、好き合った者同士でもなんでもないじゃないですか」
「あくまで契約上の夫婦ということなら、問題ないだろ」
「契約……?」
「ああ。俺と結婚することで、きみは自分の身を守れる。俺は……出世、に繋がる。香椎さんの義理の息子になってこれまで以上にかわいがられれば、パイロットとしての将来も安泰だ」
途中で少し言いよどんだのが気になるが、どうやら彼は利害一致の契約結婚を提案しているようだ。
露木さんのことをいい人だと思ったのは錯覚だったのだろうか。
やっぱり、出世のために私を利用しようとしている?
「でも露木さん、家族を作る気はないって言ってませんでした……?」
おそるおそる尋ねてみると、露木さんは微かに眉を曇らせ、私から視線を外す。
なんだか、触れてはいけない傷に触れてしまったような罪悪感に襲われる。
昨日、彼自身が話していたことなのに。
「……単に気が変わっただけだ」
「そ、そうですか」