天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 勢いだけでは返事をしたくない。一旦彼と離れて気持ちが変わらなければ、その時は契約結婚の話に乗ろうと思う。

「明日から国際線の乗務でニューヨークだから、金曜の夜か土曜なら終日会える。きみの都合は?」
「私は土曜日から遅番の仕事なので、金曜の夜でもいいですか?」
「ああ、わかった。食事をしながらでも話そう」

 約束を取り付けた後、スマホを突き合わせて露木さんと連絡先を交換した。

 電話帳に登録された【露木嵐】と言うフルネームを見るだけで、なんとなく胸が高鳴る。

「この、嵐という名前。『縁起が悪い名前ですね』なんて後輩の副操縦士にからかわれることもあるが……」

 私がジッと彼の名前を見ていたからか、露木さんが唐突に語り出す。

 嵐……確かに、パイロットなら遭遇したくない空模様のひとつだろう。

「どんな嵐でも立ち向かえる人間になるようにって、両親がつけてくれたんだ。パイロットになるなんてまだわかってもいない、赤ん坊の俺を見て。だから、自分ではとても気に入ってる」

 微笑んだ露木さんは、とても優しい目をしていた。

「素敵なご両親なんですね」
「ああ。俺がパイロットとして生き続けるのは、両親のためだ」

 すごい……。私だって自分の両親を尊敬しているけれど、その気持ちをこんなにストレートには語れない。

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