天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「ご両親にとっても、露木さんは自慢の息子なんでしょうね」
「……だといいけどな」
少し寂しそうな目をして、露木さんが微笑む。ご両親をこんなに想っている彼なのに、折り合いでも悪いのだろうか。
会話を交わすうち、タクシーは私の自宅マンションの前に到着した。
私はここまでの料金を支払うと言ったのに、露木さんが「いらない」と言うので、何度か押し問答してしまった。最終的には、私が折れたけれど。
「じゃあ金曜日に」
車を降り、半分ほど開いた窓越しに露木さんと挨拶を交わす。
「はい、送っていただいてありがとうございました。おやすみなさい」
「おやすみ。いい返事を期待してるよ、紗弓」
「えっ」
今、名前……。
ぽかんとする私に甘い笑みを返すと、彼は運転手に車を出すように告げ、そのまま去っていった。
「……不思議な人」
真面目かと思えば女性慣れしているようにも見えるし、ご両親を誇りに思っているわりに、家族を作らないなんて言う。
もっとも、今は『気が変わった』らしいけれど……。
本人がそばにいないのに、露木さんのことばかり考えてしまう。
思わずコートの上から手を当てた胸はトクトクと音を立て、甘い予感に揺れていた。