天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
私はお父さんの審査を受けるパイロットじゃあるまいし、そんな怖い顔をして見ないでほしいんだけど……。
父は大手航空会社『ブルーバードエアライン』の機長であり、社内の査察操縦士としての資格も有する。
査察操縦士とは国の運航審査官に代わり、乗務員たちの技能を審査するパイロットのこと。安全運航のためには欠かせない役職だ。
父に不合格を言い渡されたパイロットは乗務から外されてしまうので、社内ではかなり恐れられているそう。
今日これから私が合う相手も、逆らえない上司である父からの頼みを断れなかっただけに違いない。年頃の娘の結婚相手になってくれないかなんて、公私混同の極みだもの。
「ああ。露木くんに会ったら、時間を作ってくれた礼を言っておいてくれ。ただし、紗弓に手を出すのは結婚を決めてからだ」
父の紹介でこれから会う相手――露木嵐さんは、カナダの航空会社から引き抜かれた逸材で、国内ライセンスへの書き換え試験も機長昇格訓練もなんなくパスした天才パイロットらしい。
査察操縦士である父でさえ一目置いているのだから、その実力は本物なのだろう。