天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
そんなことを考えているうちに、露木さんが運転席に戻り、シートベルトをする。
彼のごつごつした手がハンドルとレバーを握って、車はゆったりマンションの敷地を出て行った。
「緊張してるだろ」
「えっ?」
開口一番にそんなことを言われ、ドキッとする。
露木さんは前方を見据えたまま、穏やかに続ける。
「表情が硬い気がする。契約結婚をどうやって断ろうか悩んでるのか?」
核心を突く四文字を出され、ますます心臓が暴れた。
いきなりその話を持ち出されるなんて……。
「い、いえ。むしろ逆に、承諾のお返事ってどうしたらいいんだろうとそればかり……」
軽いパニックに陥った私は、そう口にしてからハッとする。
私、いま、ものすごく重要なことを軽々しく口にしたんじゃ?
ひとりでうろたえていると、隣からクスクス笑う声が聞こえてきた。
「悩んだ時間が無駄になったみたいだな」
「聞こえちゃってました……?」
「ああ、しっかり」
おかしそうに目を細める彼の横顔に、やってしまった……と頭を抱えたくなる。
どうせ後で返事をするつもりだったのだから結果は同じだけれど、こんなに早く承諾したら結婚にものすごく乗り気なようで恥ずかしい。