天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 露木さんが現在住んでいるマンションは、昇さんがブルーバードエアラインを退職してから引っ越した場所らしいので、私が一緒に住んだとしてもとりあえず安全だろうとのことだった。セキュリティも厳重らしい。

「実家にも近いので、私の両親は安心ですね」
「そうだな。俺は不在にすることも多いから、ちょくちょく顔を見せるといい」
「露木さんのご両親への報告はいつにします?」

 話の流れでそう聞くと、コースのメイン料理、牛肉のタリアータにナイフを入れていた彼の動きが止まった。

 けれど気のせいかと思うくらい一瞬で、すぐに微笑を浮かべて私を見る。

「いないんだ」
「えっ?」
「俺がカナダのフライトスクールに留学している時に……事故でふたりとも」

 今度は私がナイフを止める番だった。ご両親を事故で亡くしているなんて初耳だったから。

「そう……だったんですね。知らなかったとはいえ、すみません」
「いや、こちらこそ話すのが遅くなって悪かった」

 露木さんは珍しく気まずさを漂わせ、ノンアルコールワインに口をつける。半分ほど残っていたグラスの中身が、一気に飲み干されていく。

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