天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「そういうわけだから、俺の方は挨拶だとかそういうのを気にする必要はない。紗弓のご両親と俺たちだけで、一度食事でもしよう。実は、香椎さんの心を射止めた紗弓のお母さんってどんな人なんだろうって、結構気になってるんだ」
空にしたグラスをテーブルに置いた彼は、明るい表情を取り戻してそう言った。
あまりご両親の話をしたくないみたいだ。それほど悲惨な事故だったのかな……。
この間〝嵐〟という自分の名前について聞かせてくれた時はとてもいい表情でご両親のことを語っていたけれど、あの時は事故について語る必要がなかったから、穏やかでいられたのかもしれない。
「母は普通の主婦ですよ。ただ、あの父を甘やかしてあげられる器の大きさはありますね」
話題が私の両親のことに及んだので、そちらを掘り下げることにする。
「香椎さんが、甘やかされる?」
想像もつかない、というように顔をしかめる露木さんがおかしくて笑ってしまう。
「はい。母の作った絹さや料理が大好きで、食べただけで眉間の皺が減るんですよ」
「そうなのか……。紗弓と結婚したら、その現場に出くわすチャンスもあるかもな。見たいような、見たくないような」
「ふふっ。父が威厳をなくす日も近いですね」