天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
露木さんはご両親の話以外なら気まずそうな空気を出すことなく、たくさん笑顔を見せてくれる。
触れられたくない過去というのは誰にでもあるものだから、それ以降ご両親の話は一度もせず、楽しい食事に終始した。
食事の後、少し腹ごなしをしたくて海辺の公園へとやって来た。敷地に沿うように作られた遊歩道の上を、ふたりでのんびり歩く。
街灯だけでなく、レインボーブリッジを筆頭に輝く都心の夜景のお陰で、周囲はほどよく明るかった。
「寒くないか?」
「平気です。お酒は飲んでいないのに……不思議と、体がぽかぽかしてて」
不思議と言いつつ、自分ではその理由がわかっている。露木さんが気づくかどうかはわからないけれど、遠回しに自分の気持ちを伝えたつもりだ。
「そのわりに、手は冷たいな」
照れくさくて前ばかり見ていたら、露木さんがゆるく私の手を握る。温かくて硬い手のひらの感触に、心臓が早鐘を打つ。
どういうつもりなんだろうと彼をそっと見上げると、優しい眼差しと目が合う。
ますます胸が高鳴って、目が逸らせない。
「紗弓の手が温かくなるまで、握らせて」
反射的に、こくんと頷く。露木さんはふっと微笑むと、指を絡ませてしっかりと私の手を握りしめた。
遠回しな愛情表現しかできない私の気持ちを、汲んでくれたみたいに。