天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「露木さん、あったかい」
胸がいっぱいになって、ただそれだけ呟く。こんなことで幸せを感じられるなんて、十代の頃に戻ったみたいだ。
「こんな風に誰かと手を繋ぐのは久しぶりだ」
露木さんも、どことなく懐かしそうにそう言った。
昔の恋人を思い出しているのだとしたら切ないけれど、これから結婚しようとしている相手の前でそんな話はしないはず。
だとしたら、家族との思い出……とか?
聞いてみたいけれど、きっと今の私ではまだ触れてはいけない。
そう思うと不意に切なくなって、彼の隣でうつむいた。
「紗弓」
そっと名前を呼ばれて、顔を上げる。彼の長い指先がふわりと私の髪を耳にかけ、顎をすくった。
視線が絡まった次の瞬間、唇同士がそっと重なる。
冬の夜の香りと露木さんの纏うシトラスの香りが混じり合って私を包み込む。
甘い幸福に満たされる反面、胸が苦しくなる。心の中があまりにも彼の存在でいっぱいで……。
「参ったな。こんなに早く手を出すつもりはなかったのに」
唇を離した彼は、そのまま私を抱き寄せてどこか悔し気に呟いた。
屋外だが、公園にあまり人はいないので私も彼の背中にきゅっと掴まる。