天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
けれど、有能だからって人柄までいいとは限らない。父の顔を立てるために一応会いに行くけれど、実は露木さんに関する悪い噂をいくつも聞いているのだ。
「そんなことわざわざ言わなくたって、お父さんが怖くてできるわけないでしょ。それに、露木さんにだって選ぶ権利ってものがあるんだから」
「お前は容姿も中身も自慢の娘だ。彼も気に入らないはずがない」
「真顔で親バカ炸裂させるのやめてよね……。とにかく、行ってきます」
付き合いきれず、リビングを後にして玄関に向かう。パイロットの間では恐れられている父だが、昔から娘には甘いのだ。
私が空港のラウンジスタッフとして働いているのも、実は父の親心がかなり反映されている。
幼い頃の私はCA志望だった。娘から見てもカッコいいパイロットの父は自慢で、いつかお父さんと一緒に空を飛ぶのだと、無邪気に夢見ていた。
しかし、私が中学三年生の頃、航空機の乗客乗員全員が亡くなる不幸な事故が発生した。
日本からカナダへ向かう直行便が、太平洋上に墜落したのである。