天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 あさっての方を向いてそう言った彼に、思わず苦笑がこぼれる。

「違うんですね……。ごまかし方が下手すぎますよ」
「ごめん。でも、これに関しては紗弓が薄情なのが悪い」
「薄情?」
「まったく思い当たる節がないようだな……運命を感じたのは俺だけか」

 若干拗ねたような口調の露木さん。運命を感じるような出会いだったなら覚えていそうなものなのに、どんなに考えても彼との初対面はあのアフタヌーンティーだ。

 ジッと考え込む私の手を引いて、露木さんは公園の出入口へと引き返していく。

「あの、ヒントだけでもくださいませんか?」
「じゃあ、交換条件として俺のこと名前で呼んでもらおうか」
「えっ」

 油断していた。こんなタイミングでリクエストされるなんて。

「嫌なら別に無理強いはしない。その代わりヒントはなしだ」

 いつもの優しい微笑みが、今はなんだか小悪魔のように見える。

 でも、結婚するならどうせいつかは呼ぶことになるのだし……。

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