天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 太平洋上に船を浮かべ、海上に献花する遺族たち。

 そこに参加していた若い日本人男性が静かに涙を流す姿を見て、胸がちぎれそうになった。

 彼は事故で同時に両親を失ったのだと、ナレーションが説明していた。

 もしも私の身になにかあって、自分の家族があんな風に涙を流すことになったら……考えただけで耐えられない。

 どうか、あの人の未来が明るいものでありますように。テレビ越しにそう願ってしまうくらい、印象的なシーンだった。

 そうして私は父の気持ちを汲み、CAではなく地上で働くスタッフを目指すことにした。

 一般の搭乗客には良くも悪くも色々な人がいるため、ある程度社会的地位のある人々しか利用できないラウンジスタッフの道を勧めてきたのも父だ。

 狭き門ではあるが、それはCAを目指す場合でも同じこと。短大で語学の勉強をしながら週末はホテルのフロントでアルバイトをして接客を学び、就職活動に臨んだ。

 父のいるブルーバードエアラインの子会社から内定をもらえたのはまったくの偶然だったけれど、それでも、憧れの父と近い場所で仕事ができると決まり、素直にうれしかった。

 父の親バカに負けないくらい、私もファザコンなのかもしれない。

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