天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
申し訳なさそうに眉尻を下げる彼に、微笑んで首を左右に振る。
嵐さんはきっと、私と同じ。心の内をさらけ出す勇気がほんの少し足りなかっただけ。
まだ、彼の抱えているものの中身を知ったわけではないけれど、心の距離は一歩近づいたはず。そう思うだけでも穏やかな気持ちになれた。
「紗弓の美味しい手料理を前にして、暗い話をするのは気が引けるけど……」
私の料理にひと通り箸をつけ、一品ずつ「美味しい」と頷いてから、嵐さんは改まって私を見つめた。
「大丈夫、私たちは夫婦なんです。これからも何度だって食事をともにしますから」
「……そうだな」
微笑みかけると、嵐さんは安心したように頷いた。
「両親を事故でなくした話はしたよな」
「はい。確か、嵐さんがフライトスクールにいた頃って」
「ああ。ちょうど、カナダに留学した最初の年の夏だ。俺がホームシックになっていないかと、両親は日本からはるばる様子を見に来ようとしてた。当時の俺はもう二十歳だったっていうのに」
過保護だと言いたげに苦笑する嵐さんだけど、そこにはご両親への愛情が透けて見えた。
内心では、心配してくれてありがとうと思っていたに違いない。