天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「その時両親が乗っていた飛行機は、パシフィックスカイ航空714便。……紗弓も聞いたことがあるだろう?」
もちろん知っている。航空機が太平洋上に墜落し、乗客乗員の誰も助からなかったあの事故を起こした機体のことだ。
今でも、事故を表す名称にはその便名が使われている。
『パシフィックスカイ航空714便墜落事故』――と。
まさか、嵐さんのご両親があの事故機に搭乗していたなんて。
「はい。私は中学生でしたが、連日事故の報道を見て胸を痛めていました。その時から航空業界に憧れていたので、かなりショックで……」
「俺もショックで、一度はパイロットへの道をあきらめようと思ったよ。事故直後は、操縦桿を握ろうとすると手が震えて、とても飛べる状態じゃなかった」
「無理もないです。ご家族があんな事故に巻き込まれていたら……」
当時のテレビには、海上に散った無残な航空機の姿が映し出されていた。
あれに、家族が乗っていたと知ったら……訓練も勉強も手につくはずがない。
日常生活を送ることもままならないほど、普通ではいられないだろう。