天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

『俺がパイロットとして生き続けるのは、両親のためだ』

 彼はご両親の最期の望みをかなえるため、ひたむきにパイロットの仕事に向き合っているのだ。遺されたメッセージの通りに、強い気持ちで世界に羽ばたいていこうって。

 なんて優しく立派な人だろう。

 息子を思うご両親の気持ち、そして嵐さんの強く気高い精神が合わさって心の中に流れ込んでくるようで、胸がジンと熱くなる。

 でも、感情が昂る理由はそれだけじゃない。私、このメモに見覚えがある。

 決して忘れてなんかいなかった。彼と初めて出会ったあの日のことを。

「私がこのメモを届けた男の人って、嵐さんだったんですね……」
「やっと思い出してくれたか」

 はにかんだ彼に、あの日出会った旅行者の面影を重ねる。

 あの時の彼は、大きなリュックにマウンテンパーカー、帽子、それに無精髭という、ラウンジの利用者としては珍しいバックパッカーのようないでたちをしていた。

 受付をしたのが私でなかったために名前や身分も把握していなかった。

 だからすぐには気づけなかったけれど、メモを届けた時の澄んだ眼差しは、今思えば確かに彼のものだ。

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