天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす
「あの時は日本で両親の七回忌を終えて、ついでにのんびり休暇を過ごしてからカナダに帰ろうとしていたところだったんだ。身なりを整えるのは向こうについてからでいいと思っていたからあんな格好だったけど、紗弓は少しも嫌な顔をしなかったな。さすが青い鳥ラウンジのスタッフだ」
「いえ……あの時はまだ一年目で、仕事に慣れるだけで精一杯でした。とっさに嵐さんを追いかけて忘れ物を渡した後で『どこに行ってたの!?』と先輩に怒られちゃいましたし」
当時を思い出して苦笑する。
レセプションは安易に持ち場を離れてはいけない。忘れ物があったらきちんと保管しておき、お客様から連絡が会った時に対応できるよう記録を残しておく。
……などのルールがあったのに、お客様が飛行機に乗る前に届けなきゃ!という気持ちが先行して慌ててしまったのだ。
「そうだったのか。でも、紗弓でない人がメモを見つけていたら捨てていたんじゃないかな。きみが見つけてすぐに届けてくれたから、メモは今ここにあるんだ。本当に感謝してる」
「嵐さん……」
偶然が重なって出会い、今また同じ一枚のメモを挟んで彼と向き合っている――。
運命という言葉を、生まれて初めて信じたくなった。