天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

 玄関を出て行く前に、シューズクロークの扉についた姿見で全身をチェックした。

 ベージュのAラインコートの中に、白のニットと黒のワイドパンツ。足元は黒いショートブーツというシンプルなコーデだが、アクセントのつもりでバッグは鮮やかな紫のミニショルダーにした。

 いくら会いたくない人との予定でも、最低限の身だしなみくらいは整えないとね……。

 そんなことを考えていると玄関のドアが開き、買い物に出ていた母が帰宅した。

「あら、素敵よ~紗弓。露木さんとうまくいくといいわね」

 私の格好を上から下まで眺め、のほほんとした笑顔を浮かべる。

 多忙な父を支えるために結婚当初から専業主婦をしている母は、世間知らずな面もあるけれどおおらかで、堅物な父とうまくバランスが取れている。

「うーん……会ってみないとわからないかな」

 母に曖昧な笑みを返し、玄関を出る。しかし、内心では露木さんとうまくいきっこないと思っていた。

 スマホで時間を確認すると、ふと一件のメッセージが目に入る。

 差出人は、青桐昇(あおぎりのぼる)。二年半交際したが、半年前に別れた元恋人だ。

 実は彼も元パイロットで、露木さんに関する悪い噂というのも彼に聞いたものだった。

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