天才パイロットは契約妻を溺愛包囲して甘く満たす

「カナダでは牛肉の代わりにトナカイの肉をシチューに入れたりしていた。意外とくせがなくて美味しいんだ」
「トナカイ、北欧の方々も食べますよね。寒い国では重要なたんぱく源だから」
「ああ。肉を甘いジャムと合わせたりしてな」

 トナカイといえば、サンタクロースの相棒。食べちゃうなんてちょっとかわいそうな気もするが、牛肉や豚肉だって同じこと。

 空港には多種多様な食文化を持つお客様がやってくるから、自分の勝手な偏見でものを考えないよう、日々気をつけている。

「そういえば、嵐さんはカナダのどの辺りににお住まいだったんですか?」

 カナダとひと口に言っても、日本とは比べ物にならない国土面積だ。飛行機で飛ぶ距離も必然的に長くなる。

「会社の拠点がバンクーバー国際空港だったから、マンションもそこで――」
「……嵐?」

 その時、私たちのテーブルのそばで女性が彼の名を呼んだ。嵐さんは私の背後に視線を注ぎ、驚いたように目を見開く。

「……ノアか?」
「やっぱり嵐だ! もう、せっかくソウルメイトと同じ会社に入ったのに全然会えなくて寂しかったんだから~!」

 女性のはしゃいだ声に、思わず複雑な感情が湧く。

 いったい誰? 同じ会社ということは、ブルーバードに勤めているってことだよね?

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