かつて女の子だった人たちへ
令美は子どもの頃から安価ではあるがおしゃれな服を着ていた。ティーン向け雑誌からそのまま出てきたような流行りの服だ。
母は令美をしきりに褒めた。可愛い、美人、将来が楽しみ。令美も鏡を見て思った。「私は弓ちゃんとは全然違う。顔が小さいし、目が大きい。手足や身体はほっそりしている。私は可愛いのだ」令美は自尊心を育て、幼心に自分より優れていない弓の容姿を下に見るようになっていった。
同じ付属校の幼稚舎に入り小学校に入学すると、その自尊心はより強くなっていった。同級生に令美ほど可愛い女の子はいなかった。誰と比べても自分は可愛い。
隣にいつもいる弓はいい引き立て役だった。
弓と並ぶと、令美はより可愛らしく見えた。大人たちがそう扱うことも、令美は知っていた。令美にはことさら「可愛い」と言うけれど、弓は褒めるところがないから「かしこそう」「優しそう」と言うのだ。
一方で令美にはどうにも気に入らないことがあった。
弓の周囲には人が絶えなかったのだ。
最初は自分に人が寄ってきているのだと思っていた令美だが、小学校中学年くらいになり、仲良くしている友人グループが別れるようになってくると理解した。クラスの元気な子も、スポーツ好きな子も、静かな子も、みんな弓には親しく近づいていく。
一度それを母に言ったことがある。すると慌てたように母は「弓ちゃんは体型や雰囲気が親しみやすいだけで、令美の方が可愛いし、女の子として優れている」と答えたのだった。幼い令美は一応は納得したものの、ひっかかるような疑問は消えなかった。
(私の方が可愛いのに、どうして弓が好かれるの?)
優れているのが令美なら、人気だって令美の方があって当然だ。それなのに、現実は少し違う。
野暮ったくて、ふくふく丸くて、ブスで、休みの日はいつも両親と手を繋いで出かける弓。弓の母親は彼女に似たずんぐりした体型で、弓そっくりの顔をした父親は令美の両親よりずっと年上そうだった。
別々に学校生活を送りながらも、幼馴染という枠でふたりは繋がっていた。
*
母は令美をしきりに褒めた。可愛い、美人、将来が楽しみ。令美も鏡を見て思った。「私は弓ちゃんとは全然違う。顔が小さいし、目が大きい。手足や身体はほっそりしている。私は可愛いのだ」令美は自尊心を育て、幼心に自分より優れていない弓の容姿を下に見るようになっていった。
同じ付属校の幼稚舎に入り小学校に入学すると、その自尊心はより強くなっていった。同級生に令美ほど可愛い女の子はいなかった。誰と比べても自分は可愛い。
隣にいつもいる弓はいい引き立て役だった。
弓と並ぶと、令美はより可愛らしく見えた。大人たちがそう扱うことも、令美は知っていた。令美にはことさら「可愛い」と言うけれど、弓は褒めるところがないから「かしこそう」「優しそう」と言うのだ。
一方で令美にはどうにも気に入らないことがあった。
弓の周囲には人が絶えなかったのだ。
最初は自分に人が寄ってきているのだと思っていた令美だが、小学校中学年くらいになり、仲良くしている友人グループが別れるようになってくると理解した。クラスの元気な子も、スポーツ好きな子も、静かな子も、みんな弓には親しく近づいていく。
一度それを母に言ったことがある。すると慌てたように母は「弓ちゃんは体型や雰囲気が親しみやすいだけで、令美の方が可愛いし、女の子として優れている」と答えたのだった。幼い令美は一応は納得したものの、ひっかかるような疑問は消えなかった。
(私の方が可愛いのに、どうして弓が好かれるの?)
優れているのが令美なら、人気だって令美の方があって当然だ。それなのに、現実は少し違う。
野暮ったくて、ふくふく丸くて、ブスで、休みの日はいつも両親と手を繋いで出かける弓。弓の母親は彼女に似たずんぐりした体型で、弓そっくりの顔をした父親は令美の両親よりずっと年上そうだった。
別々に学校生活を送りながらも、幼馴染という枠でふたりは繋がっていた。
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