かつて女の子だった人たちへ

第3話




現場を仕切るTOと呼ばれるファンに、マナーを知らなかったことを謝罪する。

(なんだかとんでもない話だな)

そう思いつつ、郷に入っては郷に従えという言葉もあると考える。この“現場”で波風をたてさえしなければ、レイキを応援し続けられる。
それなら謝っておいた方がいい。
ライブの開演まで十分ほど、トモカに連れられ芽里は最前列の端にいる女性のへ向かう。
薄い色の縦巻きロールの髪、メイクの雰囲気では二十代後半にも見えるが、おそらくは芽里より年下だ。ひと目見てわかるハイブランドのバッグと時計。昼の商売ではないかもしれない。狐顔で、何もしていなくても険のある表情に見える。

「ミヤナさん、ちょっといいですか」
「トモカちゃん、どーも」

鼻にかかった声でしゃべる人だ。

「こちらメリーさん。デビューライブの件で。彼女、本当に何も知らなかったみたいで」
「あ~……」

ミヤナはうんうんと頷いて見せる。

「あれね。なんか一部が晒して落とし込み(※陥れるの意)やってるのが、嫌な感じだったよね。これじゃ、新規が入ってきづらいから、私もどうかと思うんだけど」

落とし込みとはなんだろう。けなすことだろうか。そんなことを考えながら改めて頭を下げる。

「あの、ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません。こういった場の作法に詳しくなくて、何も考えずにやってしまいました」

素直に謝罪すると、ミヤナはじろじろと見分するようにこちらを見てくる。
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