かつて女の子だった人たちへ
こうして芽里は現場に復帰した。アイドル・レイキを輝かせるのが芽里の目標だ。
レイキは努力家でいい子なのだ。顔だって悪くはない。歌唱力も発展途上だけど、まだまだ伸びるはず。いつかセンターを任される日だってくるかもしれない。
それにメン地下と分類されていても、大きなグループはキャパのある会場で、地上アイドルのようなライブをしたりするのだ。地上アイドルより距離が近いという強みを活かし、どんどんファンを獲得し、『ミルkey』には大きくなってもらいたい。

あれ以来、芽里は目立たず騒がず、レイキ推しを続けている。週三回のライブに通い、チェキ券は必ず10枚購入している。ミヤナやその周辺から指示が入れば、素直に言うことを聞いている。
波風さえ立てなければ、誰も何も言ってこない。芽里は自分が現場になじみつつあるのを感じていた。量産型の代名詞のようなワンピースは何着か購入し、最近はブラインド販売の缶バッジでレイキを集めようと苦心している。揃ったら痛バッグを作るのだ。推しを主張するアイテムは一度作ってみたかった。

「ねえ、メリーさん」

今日もレイキは格好いい。芽里は束の間のチェキタイムにレイキの成分を補充しようとニコニコ笑顔だ。

「なあに、レイキ」
「俺とメリーさんだけの合図決めない? ライブ中、個レス(※個人あてにレスポンスすること、合図すること)するよ」
「え、駄目だよ。アイドルが贔屓しちゃ」
「いーの!」

芽里は嬉しさと困惑でまごまごする。

「チェキ撮りながら決めよ」

レイキに指示されて、色々なポーズをとる。

「ねえ、メリーさん。こんなのどう?」

レイキが両手を顎の横でもしゃもしゃと動かす。

「ふふ、なにそれ」

チェキでその瞬間も撮影してもらいながら芽里は笑った。
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