かつて女の子だった人たちへ
【今夜でもいい?】

その言葉に芽里は心臓が破れそうな心地になった。

【うん。18時にレイキの都合のいい場所にいくね】

そう返信して今度こそスマホをしまった。
制服で仕事をしているので今日の私服を思い出す。ごくごく一般的なブラウスにスカートだ。こんなことなら、もっと可愛い服を着て来るべきだった。メイク道具は全部あるから、定時を過ぎたらトイレでメイクを直そう。
心臓が痛い。
今夜、レイキとプライベートで会う。ふたりきりで会うのだ。



メイクを直して向かったのは、ライブハウスからもコンカフェからも離れた街だった。芽里の家方面とは違う私鉄に乗って池袋から十分。指定された駅前のイタリアンバルでレイキは待っていた。

「レイキ」

ふたり席の椅子に腰かけているレイキは、芽里を見つけて嬉しそうな顔をした。

「メリーさん、来てくれてありがとう」

無邪気な笑顔に撃ち抜かれそうになる。芽里は嬉しさと恥ずかしさで唇をもぞもぞさせながら、頷く。

「ううん、いいの。ここ、レイキの最寄りだったりする?」
「そうなんだ。ここなら、アイドルの俺を知ってる人もあんまりいないだろうし、メリーさんとゆっくり話せるかなって思ってさ」

そのくせ、レイキはキャップとサングラス姿だ。アイドルとしての自覚かもしれないが、かえって目立つ気もする。

「呼んでくれて嬉しいけど、相談したいことって? 何かあったの?」

アルコールを注文し、喜びを押し隠してレイキを見つめる。レイキは曖昧に笑った。
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