かつて女の子だった人たちへ
「ん~、実はさ、『ミルkey』の活動に行き詰まってるっていうか」

レイキはうつむき、言った。

「俺、向いてないのかなって思い始めてるんだ」
「向いてないって……そんな」
「『ミルkey』辞めようか悩んでる……」

言葉が出なかった。頭を殴られたような衝撃だ。レイキの口から「辞める」という言葉が出るなんて。

「ファンサも気が利かないし、MCでしゃべっても空回りっていうか。歌割りも増えそうにないし、ダンスは自分でも一番下手だってわかってるんだよね」

表情は苦笑いでカバーしているが、レイキが自信喪失しているのが伝わってくる。

「でも、レイキは歌もダンスも練習してるんでしょう?」
「そりゃしてるよ。だって、俺、一生懸命やるしか能がないんだもん」

レイキは切なく表情をゆがめて言う。

「ジュリンみたいにカリスマ性もないし、レノみたいな歌のうまさもユウヤみたいなダンスのうまさもない。チヅみたいにコミュ力鬼でもないんだよ。俺は地道にやるしかない。真面目しか取り柄がない。それなのにパッとしなくて」

芽里の前に、ジンバックが運ばれてくる。それには目もくれず、芽里は向かいにいるレイキをじっと見つめた。

(私にだけ、こんな弱音を吐いてくれてるんだ。それなら私しか勇気づけられない)

レイキがアイドルを辞めるなんて嫌だ。夢を叶えたことが芽里の喜びだった。こんなに早く諦めないでほしい。

「レイキ、レイキは夢を叶えてアイドルになったんだよね。それだけですごいことなんだよ」

レイキはまだうつむいている。前を向いてほしい。レイキはその方が輝ける。

「レイキが頑張る理由は夢の舞台でアイドルを全うすることでしょ。メンバーと比べなくていいよ。レイキはレイキであるだけで素敵だよ」
「メリーさん」
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