かつて女の子だった人たちへ
その時だ。ぽんぽんと肩を叩かれ、芽里はびくりと跳ね上がった。

「お姉さん、これでどう?」

そこにいたのはポロシャツ姿の男性だ。五十代後半くらいだろうか。
男は右手の人差し指を立て、左手はパーに開いている。

「え? ええ?」
「あ、本番はやらない人? それでもいいんだけど、それじゃ手でこれは?」

今度は右手をパーにして見せてくる。
芽里は混乱した。何を言われているのかわからない。

「お姉さん、可愛いから口ならもう一声出しちゃう。どうかな」

男は左手の指を二本足し、七を示す。そこで芽里もようやくこれが性的な交渉だと理解した。
池袋の繁華街の片隅。芽里が立ち止まっていた場所が悪かったようだ。近くには外国人や年齢不詳の女性が幾人か立っていて、そのうち数人は同じように男と話しているのだ。

(このおじさん、そういう目的で話しかけてきてるの?)

芽里は混乱しながらも男が提示した七本の指を凝視していた。

「……最後までしないで七千円ですか?」

問い返した声は裏返っていた。相手にしちゃだめと頭の中で誰かが叫んでいるが、芽里の目は男の七という指から離れられない。

「そうそう。お口ですっきりさせてほしいな」

7000円。それが相場で高いのか安いのかわからない。でも最後までしないなら、性病などは安全かもしれない。

(どうせ、処女でもないんだし)
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